2017-11

分数と小数

米国へ来たばかりのころ、New York Times紙の記事を読んでいて、0.2%というときに”two-tenth of one percent”と表記することを知った。ただでさえ文字数を減らして紙面を節約しようとする新聞記事にあって、紙面ずいぶんと長く回りくどい言い方をするものだと、不思議に思ったものだ。その後も同様の小数つきの数字が記載される記事では、見出しでは小数が使われていても、本文では上記のような分数表現で記載されるのが一般的だということがわかってきた。
日本では、0.2%のことを「1パーセントの10分の2」と表現することなどありえない。米国では、このほかにも、日常生活において分数が使われることが日本に比べて多いように思われる。たとえば、1時45分のことをa quarter to twoと言い、30分間のことをone half of an hour(これは主に文書の中で)と表現したりする。このほか、住宅ローンなどの金利も8分の1%(0.125%)あるいは16分の1%(0.0625%)刻みで表示されることが多いし、距離を表示するときも、three-quarter mileと言い、0.75mileとは普通言わない。
分数は、小数よりも実際の物に即した、より具体的な概念だ。たとえば、りんごを4人で分けるときには、「りんごを4分の1づつ分ける」といい、「りんごを0.25個づつ分ける」とは言わない。分数は、ひとつのものをいく等分かに分けることが前提で、常に具体的な物に由来する。一方、小数は、具体的な物との関係は分数より薄い。0.25という小数を聞いたとき、これを、あるひとつの物を100等分したうちの25個分と考える人はまずいないだろう。ひとつの物を100個(たとえ10個でも)に等分することは、実生活の中ではめったに起こらないことだけに、具体的に実感しにくい。でも、僕たちは、0.25とは全体のどのくらいに当たるかは瞬時に把握する。つまり、具体的な物に即してではなく、抽象的な概念として小数を実感できていると言える。
なぜ、米国では分数が、日本では小数なのか。僕の勝手な(そして日頃の生活からの実感から)推測するに、米国の人々は、分数のような具体的な発想を好み、日本の人々は、小数のような抽象的な発想を好むからなのではないだろうか。米国で暮らしていると、何か問題が具体的な形で生じたときに、米国の人々は、実にうまくしかも素早くそれを解決することに感心することが多い。これを最も強く実感したのは、例の9.11同時多発テロの際、あのような未曾有の出来事に対して、ニューヨーク市長を先頭にして市民はそれぞれに、冷静にかつ精力的に対処したときだった。反面、将来どんな問題が起こるかをいくつかのシナリオを作って想定して、それぞれの場合に対して予め対応策を作る、というようなことを職場でやろうとすると、皆とたんに興味を失う。このようなタイプの依頼は、とくに日本の顧客から多いのだが、米国人の上司や同僚たちの考え方は、「どんな問題が起こるかまだわからないうちにあれこれ考えるよりも、問題が起こったときに全力でその問題を解決すればよい」というようなものだ。仮に10通りのシナリオを作っても、実際に起こるのはそのうちひとつなのだし、もしかしたら、想定外の11番目のことが起こるかもしれないのだから、少なくとも、現実社会で仕事をする上では、米国の人々の発想が適していると思う。日本の職場で人々が過労になるのは、このようなシナリオ想定とそれぞれへの対応策作り、というようなタイプの仕事に長時間を費やしているのも一因なのではないだろうか。「憂い」を恐れるあまり「備え」すぎて、備えあれば憂いなし、を通り越して、備えすぎて疲れている、という職場が日本には多いような気がする。
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内之助

Author:内之助
マラソンは、2008年12月のホノルル・マラソンをもって、全米全州(50州+DC)でフル・マラソンを夫婦で完走。その後、トレイルでのウルトラ・マラソンを経て、今はタイムを気にしなくても良い登山やハイキングを楽しんでいる。
音楽は、中学校1年生の時に、FMで偶然耳にしたモーツァルトの喜遊曲がきっかけでクラシックにのめり込む。
読書は、ノンフィクション中心に、同じ著者のものをまとめて読む傾向あり。小林秀雄、吉田秀和、カール・ヒルティ、スティーヴン・ジェイ・グールド、内田樹、茂木健一郎など。
仕事はサラリーマン。1995年以来ニューヨーク市郊外在住。

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