2017-09

「里山資本主義」 藻谷浩介・NHK広島取材班 著

角川oneテーマ21 2013年7月10日初版発行
2014年8月16日読了

「里山資本主義」という言葉は、共著者による造語で、概ね以下のような意味あいだ。
1. 水、食料、燃料の一部をお金をできるだけかけずに得る
2. お金を介さない価値の交換を重視する
3. 自然から得られるメリットを追求する
4. 人が少なく自然が多い田舎のほうが実践しやすい
5. 人の価値は、所得の多寡ではなく、「かけがえのない人」と思われるかどうかによる

本書では、そのような里山資本主義的な生き方を、現代社会を席巻している「マネー資本主義」の弊害を柔らげるための保険として実践することを薦める。マネー資本主義は本書では概ね以下のようなことを意味するようだ。
1. 金銭価値(稼いだ金額)で人を評価する
2. 何でもお金で買おうとする傾向
3. 貨幣流通量を増やすことを景気対策の柱にする
4. お金を増やすことそのものを目的とするマネーゲームにつながりやすい

さて、自分の今の生活を振り返ると、まさに、マネー資本主義にどっぷりと浸かっているのがわかる。しかし、マネー資本主義とは、我々が暮らす資本主義社会の悪い面だけを列挙したようなもので、今の世の中に生まれた以上、マネー資本主義的な悪影響を受けることは避けられない。なので、本書で紹介されている里山での麗しい成功例も、確かに物語としては面白いのだけども、今一つ、自分でもやってみようという気にはならない。あまりに自分の実状からかけ離れているためだろうか。著者たちによるマネー資本主義への攻撃も、なかなかきつくて、何か自分が、とてもいけないことをやっている、と言われているような気持ちになってくる。

いい事を言っているんだけど、何と無く読後感がすっきりしない、といった感じを懐いていた時に、たまたま観たのが、NHKの「夜も朝イチ」-家庭内別居特集-(再放送)だった。

その中で、「女性100人に訊いた、夫から言われると「心が離れる」言葉は?」というアンケートの結果が示されていた。多かった回答から順に、
「俺が食わせてやっている」(51%)
「ヒマでしょ」(22%)
「子どものことは任せた」(13%)
「で、結論は?」(13%)
となったという。いずれも、僕にも身に覚えがあり、冷や汗ものだ。

そして気が付いた。これらの言葉は、まさにマネー資本主義的、つまり金銭価値中心、効率至上主義の思考パターンから発せられるようだ。つまり、(お金を稼ぐ人が稼がない人より偉いのだから)「俺がお前を食わせてやっている」、(お金を稼ぐ活動をしていないのだから)「ヒマでしょ」、(分業したほうが効率的なのだから)「子どものことは任せた」、(業務報告をする時に自分がいつも上司に言われているように)「で、結論は?」というような思考経路なのだろう。

仕事をしている時はマネー資本主義的な思考パターンはむしろ必要なスキルだろう。でも、家へ帰ってきたあとは、里山資本主義的な発想も取り入れて、金銭に換算できない価値に目を向けることで、心が少し柔らかくなるのではないだろうか。なにも、田舎に引っ越すことはない。職場からの帰宅途上で、本書で紹介されているエピソードの中から、例えば、自分たちの食事用に野菜を作っている田舎の老夫婦が、それまで捨てるしかなかった余った野菜を地元の介護ケア施設に提供することで小さな生き甲斐を感じる、といった話でも思い出すと、職場で真面目に仕事をするあまりに釣り上がってしまった目尻も、帰宅前には少し下がっているかもしれない。

里山資本主義は家庭平和の秘訣。
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内之助

Author:内之助
マラソンは、2008年12月のホノルル・マラソンをもって、全米全州(50州+DC)でフル・マラソンを夫婦で完走。その後、トレイルでのウルトラ・マラソンを経て、今はタイムを気にしなくても良い登山やハイキングを楽しんでいる。
音楽は、中学校1年生の時に、FMで偶然耳にしたモーツァルトの喜遊曲がきっかけでクラシックにのめり込む。
読書は、ノンフィクション中心に、同じ著者のものをまとめて読む傾向あり。小林秀雄、吉田秀和、カール・ヒルティ、スティーヴン・ジェイ・グールド、内田樹、茂木健一郎など。
仕事はサラリーマン。1995年以来ニューヨーク市郊外在住。

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