2017-09

創造論 対 進化論

スティーヴン・ジェイ・グールドの「パンダの親指」(櫻町翠軒訳、ハヤカワ文庫)を読み返している。氏は、古生物学と科学史のハーバード大学教授で、進化論に詳しい。氏の文章には、著者自身がどこかで書いていたように、専門的な事柄については決して「容赦しない」、つまり、正確性を損なうことなく、また、複雑なことを素人向けに変に簡略化しない、という方針が貫かれた文章は、ユーモアに満ちた語り口と相まって、気軽な読み物を超えた面白さがある。
数年ぶりに読み返そうと思ったのは、創造論(旧約聖書に記載の地質年代史を絶対に正しいものとする考え方でこれによると、地球の歴史は約6,500年で、すべての生物はそれぞれの種ごとに神が創造した、ということになる。)対進化論の法廷論争の経緯と結末をもう一度調べてみたいと考えたのがきっかけだ。信じられないような話だが、進化論を高校の生物の授業で教えることを禁じたアーカンソー州法が、80年代後半に連邦憲法上違憲とする判決が出るまで存続していた。しかも、この創造論が、単なる狂信者の空言では片付けられないくらいの大きな影響力を国民に与えているということは、グールドほどの見識の高い学者が真剣にこの論争に加わらなければならなかった、ということからして明らかだ。日本ではまずこのようなことは論争にもならないだろう。高名な古生物学者がまともに相手にするはずもないからだ。米国で、つい最近まで続いていたこの論争の発端、経緯、結末を知りたくてグールドの本を再読し始めたのだ。(前回読んだときには、単にばかげた論争をしているとの印象を持っただけで、あまり関心を持てなかった。)
米国では、日本におけるよりもはるかに多くの人が信仰を持っている。この、宗教の重みの違いが、日本ではありそうもないこの種の論争が、米国では広く社会的な関心を呼ぶことになった原因だろう。信仰は、その人の人生の根本をなす何よりも価値の高いものである。信仰を持って生活している人にとって、進化論にせよ、他宗派からの攻撃にせよ、自分の信仰している事柄を否定されることは、不快な経験だろう。まして、進化論が自分の子供の通う学校で教えられることに、敬虔な信仰を持つ親たちが反対するのは自然な流れだろう。
しかし、科学は信仰ではない。科学においては、検証しなければならず、信じてはならない。信仰においては、信じなければならず、検証してはいけない。そもそも、まったく違う領域に属する進化論と創造論とを並べて、どちらが正しいかを論じることは、初めから不可能なことだ。
生態系システムに内包された進化という壮大なメカニズム、人体の諸器官の驚くべき機能、雪の結晶の信じられないような美しさなど、自然界は目を見張るような事柄で満ちている。これらのものは、まさに神が創ったとしか思えないくらい精巧で美しい。創造論が科学的に見ておかしいと結論付けられても、神の御業がいかに驚くべきものか、ということが否定されるわけではなく、逆に、科学的な研究・観察を進めれば進めるほど、そこに驚くべき自然の姿を見出し、神の力というものをより強く実感できるようになるのではないだろうか。優れた科学者ほど信仰深い、ということは、実にありそうなことだ。科学と信仰とは、存立の基盤は異なるものだが、その隔たりは決して大きくなく、特にそのどちらかをまじめに極めようとしている人にとってはむしろ自然に両立するものなのではないだろうか。
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コメント

らどさん、
コメントありがとうございます。また、「知性派」などどいう過分なお言葉恐縮至極です。頭の中が整理されていないせいで、文章が支離滅裂になることがありますが、今後ともお付き合いくださいね。らどさんこそ、様々な分野を幅広く、そして深く窮めていらっしゃって、素晴らしいと思います。
らどさんがロスで話したという日本人の方は、おそらく、グールドの著作は読まないのでしょう。このような大きな楽しみを自ら放棄しているようで、気の毒な気がします。

知性派ランナーの内之助さん、お邪魔します。
アーカンソーの他に(州は忘れてしまいましたが)進化論を教えることを禁じている州があることを知ったのはいつだったか、、、。日本人には想像もつかないことですが、信じて疑わない人々がたくさんいるのですね。グランド・キャニオンは神が2000年前に造った!などという記事を読んで仰天しました。
ロサンゼルスに住んでいた時に、創造論を信じている日本人と話す機会がありましたが、彼らは違う宗教は受け付けず攻撃的で、偏った人達でした。真の意味での信者とは違い
全く困ったものだと正直感じました。

それにしても内之助さんの知性には脱帽です。私にないもの、、、それは知性、、、。
これからもちょくちょく退化しきった私の脳に刺激を与えて下さい。そうしないとディミヌエンドして、リタルダンドして消えてしまいそうです。

ムキちゃんのコメントにも拍手

ムキちゃんの「アーカンソー」コメント、これで肩の力が一気に抜けました~。変に背伸びせずにこれからはコメントできそう、、、ありがとうー。

アーカンソー!そんなことやってたら
アーカンゾー!!
こんなことしか書けない私って、もっと
アーカンゾー!!(あ~、情けない...v-40

まこさん、
コメントありがとうございます。1987年にようやく違憲判決が出たこのアーカンソー州法では、なんと、高校の生物の授業で、進化論を教えた時間と同じ時間数だけ創造論を(生物の授業で!)教えることを義務付けていた、というのですから驚きです。アメリカの先生も大変ですね。

信仰と科学

内之助さん、

ムキちゃんからブログを内之助さんが書き始められたと聞いて、早速読ませてもらいました。
とっても高度な内容が書かれていて、コメントなどとてもおぼつかないのですが、私のダレダレな脳を刺激してくれるハイレベルさがとにかく新鮮でした。

スミマセン。月並みな事しか書けなくて、、、

進化論が80年代後半まで教えることが禁じられていた州があるとは驚きですが、自分のルーツが本当に猿なのか、アダムとイブなのかを突きつめて考えて結論づけている人というのは少ないのではないでしょうか。
少なくとも私はなんとなくこの二つを折り合いをつけあい混ざり合う形で漠然と考えています。(キリスト教徒ではありませんが、、、ごく一般的な仏教徒です)

その意味で内之助さんが最後の部分に書かれている科学と信仰が相反する物でないとい点は共感できます。
一つの真実を別の角度から見たものとでも言うべきか、、、凡人には言い表す事が難しいのですが。

ご夫婦で走って身体を鍛え、このように読書で今度は頭まで今以上に鍛え、スゴイ、、、

また時々読ませていただいて、私の脳細胞にも刺激加えさせていただきますね。


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内之助

Author:内之助
マラソンは、2008年12月のホノルル・マラソンをもって、全米全州(50州+DC)でフル・マラソンを夫婦で完走。その後、トレイルでのウルトラ・マラソンを経て、今はタイムを気にしなくても良い登山やハイキングを楽しんでいる。
音楽は、中学校1年生の時に、FMで偶然耳にしたモーツァルトの喜遊曲がきっかけでクラシックにのめり込む。
読書は、ノンフィクション中心に、同じ著者のものをまとめて読む傾向あり。小林秀雄、吉田秀和、カール・ヒルティ、スティーヴン・ジェイ・グールド、内田樹、茂木健一郎など。
仕事はサラリーマン。1995年以来ニューヨーク市郊外在住。

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