2007-12

音楽評論家を評論する

 以前にも書いたように、クラシック音楽には、同じ曲でも多くの異なる演奏家による録音があり、有名な曲になるとその数はおそらく100を下らないだろう。そのような中から、どのCDを選ぶか、となると、無条件に好きな演奏家のものは別として、その選択に際しては、やはり音楽評論家の助けを借りるしかない。問題は、どの評論家を頼りにするかだ。
 演奏や曲の良し悪しは、詰まるところ聴き手の好み次第なのだと思う。したがって、プロによる評論と言えども、その評論家の好き嫌いが出るのは当然だ。ある評論家の好みが自分と合っているかは、試行錯誤していくうちに次第に分かってくるのだが、なにせ、現役の音楽評論家の数だけでもおそらく数十人にはなるだろうから、自分に合う評論家を見つけ出すには相応の経済的・時間的な努力と忍耐を要する。評論を読みながらその演奏を聴く、というのは、とても楽しいこととはいえ、やはり、それなりの労力はかかる。僕にとって、良い評論家を選ぶポイントは、以下のようなものだ。

1.著書を多く出版している。
『レコード芸術』、『音楽の友』などの音楽雑誌には、評論家が毎月の新譜を評論し推薦盤を選ぶコーナーがある。評論活動の主な舞台を、このような月評の場としているような評論家は当てにできない。「推薦」の2文字の有無は、CD販社の新譜販売を大きく左右する以上、販社から評論家へ、何らかの「働きかけ」があるだろうことは当然想定できる。特に、新譜のほとんどに推薦マークを付ける評論家は、特にそのような結び付きが疑われるだけでなく、読者のCD選びに寄与しないという意味でも論外だ。もちろん、著書を出版するに当たっても、CD販社からの働きかけがないとは言い切れないが、特定の販社の製品のみを推薦していれば一目瞭然だし、少なくとも、出版されている書籍での評論でそのような偏りを見たことは、これまでのところない。

2.指揮など実際の音楽活動に携わった経験がある。
評論の中に、音楽を実際に演奏したり教育したりした際の経験が反映されている時、実体験から発したものだけに強い説得力を感じる。米国では、評論家は、あくまで評論のプロであり、音楽の演奏・教育はやらない。現場から離れた立場で冷静に評論できる、というメリットはあるのだろうが、僕にとっては、現場での経験談は、自分には体験できない世界の話として興味をそそられる。

3.自分の好みを前面に出す。
音楽は詰まるところ好き嫌いだ。「客観的な評論」というのは自己矛盾した概念だと思う。演奏や曲について、自分なりの好みを読者にはっきりと分かるように書いてくれる評論家でないと、そもそもその評論家の好みが自分のそれと合っているのかどうかもつかめない。

4.音楽の楽しさを伝えてくれる。
評論を読んで、その演奏・曲を聴いてみたい、と強く思わせてくれるような文章を書く評論家は、音楽の楽しみを大きく広げてくれる。

これらの基準に照らして、30年以上に亘って、読んでは聴き、聴いては読みしてきた末、僕は次の各氏を信頼するに至った。

吉田 秀和
多数の著書と格調高い文体、教育家・音楽館の運営などの豊富な実地体験、音楽への愛情と造詣の深さなど、どの要素をとっても、僕にとっては別格的な存在だ。いつの日か、全集を揃えたいものだ。

副島 章恭
明快な評価、現役の指揮者(合唱およびオーケストラ)、雑誌の月評欄は担当せず、自著3冊と共著1冊はどれも内容充実。以前の評価が自分の中で変化した場合、率直にそれを書いてくれる点に誠実さを感じる。近時、アナログ(レコード盤)への傾倒が見られ、僕のようなCDしか聴けないような普通の音楽ファンにはやや煩わしいが。

宇野 功芳
著書多数。月評担当しているが、評価は個性的で、業者との癒着は全く感じさせない。モーツァルトのピアノ協奏曲第9番の曲に対する評価が、2つの著書の間で全く正反対になっているのにやや失望した。しかし、指揮者(合唱およびオーケストラ)としての旺盛な音楽活動が評論にうまく反映されていることや、ハンス・クナッパーツブッシュ、朝比奈隆、ブルーノ・ワルターへの思い入れと分析の深さ、など、氏の評論を読む楽しさはまだまだ捨てがたい。

今後、どのような素晴らしい音楽や評論に出会えるか、楽しみは尽きない。

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プロフィール

内之助

Author:内之助
マラソンは、2008年12月のホノルル・マラソンをもって、全米全州(50州+DC)でフル・マラソンを夫婦で完走。その後、トレイルでのウルトラ・マラソンを経て、今はタイムを気にしなくても良い登山やハイキングを楽しんでいる。
音楽は、中学校1年生の時に、FMで偶然耳にしたモーツァルトの喜遊曲がきっかけでクラシックにのめり込む。
読書は、ノンフィクション中心に、同じ著者のものをまとめて読む傾向あり。小林秀雄、吉田秀和、カール・ヒルティ、スティーヴン・ジェイ・グールド、内田樹、茂木健一郎など。
仕事はサラリーマン。1995年以来ニューヨーク市郊外在住。

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